2011/12/04

巷説百物語
























京極夏彦の単行本の、ぶ厚さと重さは挑戦的だ
このぶ厚い本を読めるのか?と本が語りかけてくるようだ

いくつかのシリーズがある
代表的なものとして、第二次世界大戦後の東京を舞台に
京極堂という古本屋の主人と「見える探偵」の榎木津礼二郎
(探偵に何が見えるかは、読んでみてのオタノシミ)
その他個性的な友人たちを軸に置いた百器夜行シリーズ
このシリーズの何話かは映画化もされているので、知ってる人も多いかもしれない
しかし、この古本屋の語るウンチクといおうか、モノの理といおうか
ストーリーとは別に語られる部分が長い、とにかく長い、そして漢字が難しい!
一作目からして作品名が「姑獲鳥の夏」である、読めるわけがない
(ちなみにウブメのナツと読みます)
ダチュラの毒についてとか、世間で言われる「憑きもの」についてとか
興味がある人にはとても面白い話だけど
そこはなくてもストーリーは成り立つから、ついつい飛ばして読んでしまう
だけど、また気になって飛ばした部分も含めてじっくり再読してしまう

探偵、榎木津礼二郎を主人公にした短編集「百器徒然袋」は私の睡眠薬である
眠れない夜に少しずつ読み返す
10回以上は再読してる中毒ぶりだ

だけど読みやすさなら、まずはこちらだろうと思うので
今回は「巷説百物語」をおすすめする
「百器夜行シリーズ」とはのまったく別のシリーズとして
この「巷説百物語シリーズ」がある

江戸時代末期を舞台に、御行の又一と
戯作者になる事を望んでいる大店の若だんな百介を軸に書かれている

御行って現在では聞いた事の無い職業だが
魔除けの札を売って歩く職業らしい
現実に江戸時代にその職業があったのか?とか
小説を読んでるとフィクションとノンフィクションの部分がよくわからない事が多いが
京極夏彦の小説においては、そのへんはきっちり考証されている
だから普段「小説」というジャンルをあまり読まない方も読めると思う
特にこの「巷説百物語」は一話一話の短編がよく出来てる話なのだ
オチがちゃんとある
「腑に落ちる」という言葉はあまり使わないけど
読み終わったあとには「腑に落ちた」そんなカンジになる

4話めの「芝右衛門狸」は淡路島が舞台だ
淡路島で語られるのんきな芝居好きな狸の話も
京極夏彦の手にかかると
お殿様のオトシダネなる気の狂った侍の始末の話になるのである
なるほど、こうやって伝説などというものは作られていくものなのかと
小説とはいえ、ホント良く出来てる話なのだ

目に見えてるものだけが「真実」ではなく「偶然」も「奇跡」もなく
誰かが仕組んでいる
ちょっと必殺仕置き人を思わせるストーリー展開もあるけど
京極夏彦入門としては、まずこの一冊からを勧めよう
そして巷説百物語を少し休憩して
百器夜行シリーズに行って「姑獲鳥の夏」を読んで
シリーズを行ったり来たりするのがおすすめだ

全編を読むと2つは別のシリーズであるはずなのに
江戸時代の又一の仕掛けが、時代を経て
古本屋京極堂の憑き物落としの仕事に関係してきたりする
まったく小説の中の話なのに、その人間関係とストーリーのカラミの上手さに
どこで、この人出てきてたっけって気になって
読み終わったシリーズを、またまた再読してしまうという
不思議な本である